少年が途方に暮れて歩いていると、どこからか石が飛んできました。
石が飛んできた方を見ると、見知らぬ人が少年に向かって、
ニヤニヤしながら石を投げつけているのです。
「やめてくれよ。僕は何も悪いことはしてないだろう」
しかし、少年の声は人間の言葉ではなく、猫の鳴き声でしかありませんでした。
少年猫が鳴けば鳴くほどその人は面白がって、幾つもの石を投げつけてきました。
たまらなくなった少年は、一目散に逃げ出しました。
逃げる途中で少年は、店の窓ガラスに映った自分の姿を見て驚きました。
「猫だ!猫になっちゃったんだ」
「いつも猫をイジメていたから、神様が怒って、僕を猫にしちゃったんだ」
少年には、どうして良いか分かりません。
しばらくは、公園の茂みの中にかくれていましたが、
どうにもお腹が空いて我慢できなくなりました。
しかたなく、少年は茂みから出て、公園のゴミ箱の中をのぞいてみました。
「あ、フライドチキンの残りが捨ててある」
でもそのゴミ箱には、しっかりネットが張ってあり、取り出すことが出来ません。
少年猫は、フライドチキンをあきらめました。
次の公園に着くと、少年猫はもう一度、ゴミ箱を探して歩き回りました。
あまりの空腹に、足がフラフラしてきます。
すると突然、「ヒュッ」という風を切る音が、耳もとをかすめました。
音の行方に目を向けると、その先の地面に小さな矢が突き刺さっていました。
少年は本当に恐ろしくなりました。
なぜなら、少年もおもちゃの弓で、野良猫を狙って遊んだことがあるのです。
おもちゃといっても、当たり所が悪ければ死んでしまうかもしれません。
弓を打ったのは、学校の同級生でした。
少年は思いました。
「あ!たしか、いつも猫をイジメているって噂されてるヤツだ」
少年は、自分のことを棚に上げて、同級生の顔をにらみつけました。
でもその同級生は、気味の悪い薄笑いを浮かべています。
「こいつ、生き物の命をもてあそんで、楽しんでいるんだ!」
少年の心に、怒りの気持ちがふくらみました。
しかし、猫の姿では、文句を言うこともできないのです。
「逃げなければ」
少年猫が走ったとたん、次の矢が足をかすめました。
「ギャッ!」
少年猫は、もんどりうって倒れこみました。
「殺されちゃう」
そう思った少年猫は、足の痛みをがまんして必死になって立ち上がり、
力の限りに駆け抜け、なんとか逃げることができました。
一日中逃げ回っていた少年猫は、空腹のまま、道端に倒れこんでしまいました。
あたりはすっかり暗くなり、その上チラホラと雪が舞い降りてきました。
「寒い。」
猫は寒いのが苦手です。
身を丸くして寒さにふるえていると、ジングルベルの音が聞こえてきました。
少年のそばを、プレゼントやケーキを抱えて楽しそうに人々が行き交います。
「今日はクリスマスか」少年は思い出しました。
一日中逃げ回っていましたのですっかり忘れていたのです。
「クリスマスの夜には、ママがケーキを作ってくれたっけ。
暖炉に火をつけて、パパとママと三人で、楽しいクリスマスを過ごしたっけな。」
少年猫の丸い大きな目から、涙がポロポロとこぼれ落ちました。
たった一日、猫の姿になっただけで、何もしていないのにイジメられ、逃げまどい、
命さえも落としかけたのです。
なんの理由もなく、ただ面白がって猫をイジメる、自分のような人間によって。
「僕も、そのうちの一人だったんだ」
「遊びで猫をイジメるなんて、ひどい人間だったんだ、僕は。」
少年はとても後悔しました。
餓えと寒さに震えていると、自分がイジメた猫たちの顔がうかんできました。
「本当に僕は、猫たちに悪いことをしてしまった」
そう思った少年猫は、イジメた猫のところへあやまりに行こうと決心し、
最後の力をふりしぼり歩き出しました。
以前、少年がイジメた黒猫は、森の中の壊れかけた小屋に住んでいました。
小屋にやってきた少年猫を見た黒猫は、「どうしたんだい?」と聞きました。
少年猫は黒猫へ今日の出来事を話し、今まで自分が猫たちにしてきたことを心から謝りました。
ずっと黙って聞いていた黒猫は、やがて言いました。
「僕たち猫の気持ちが分っただけで、キミは、人間として成長したに違いない。
だからもうお家へお帰りよ」
「でも、家へ帰ったら、またママに追い出されちゃうよ」と少年は言いましたが、
「昨日まで人間だった猫が、雪の降る夜に、こんなところにいたら死んじゃうよ?
だいじょうぶ。だってキミはもう本当に猫の気持ちが分かったんだから」
そう言って黒猫は、暗闇の中へ消えてしまいました。
少年猫は仕方なく、トボトボと家路へ着きました。
少年が家のそばまで来ると、少年を心配して外で待っていた母親が
走って来るのが見えました。
「クリスマスの日にどこへ行っていたの?とても心配したのよ」
なんと、いつのまにか少年は、もとの人間の姿に戻っていたのです。
矢で傷ついたはずの足には、傷跡さえ残っていませんでした。
「きっと、さっきの黒猫が、僕のことを許してくれて、もとの姿にもどしてくれたんだ」
暖かい家の中で、家族みんなでクリスマスキャロルを歌いながら少年は、
もう絶対に猫たちをイジメないと、心の中で誓いました。
そして、雪の降る夜にどこかに隠れている猫たちが、
おだやかなクリスマスを過ごせますようにと、神さまにお祈りをしたのでした。
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